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第26回 日本伝統俳句協会賞
「神の火」   田丸千種

関門の海鳴りまじる虎落笛

寒鴉沖の鷗へ声投げて

早鞆の白波尖る冬日かな

長州へちよつと片寄る浮寝鳥

冬菊や平家の墓に朝より灯

失せさうな平家の小径冬すみれ

後列に母の墓あり霜を踏み

氏子来て和布刈神事の火を指図

早鞆の瀬戸へ蹲踞の和布刈禰宜

寒濤へ伏して神官拝みぬ

冬濤を焦がさんばかり神事の火

早鞆の寒風巻いて神事の火

神事の火神楽の火ある寒夜かな

寒風の表となりぬ神事の火

寒の水さして神事の火をなだめ


神事の火猛り凍星現れぬ

黒き火を上げて寒夜の榾くづれ

ふりかぶる火の粉に潮の凍てんとす

旧正や神官闇へ走り出す

冬濤へ大松明の火を撒ける

したたれる炎構はず和布刈禰宜

細月のやうに光りて和布刈鎌

和布刈禰宜落ちし火の粉を踏み戻る

本殿に祀れば小さき和布刈桶

細き火を噴きつつ榾の鎮まりぬ

火を鎮め和布刈神事の闇戻す

夜をこめて待春の波逸りつつ

早鞆や旧正月へなんなんと

波迅き巖流島も春めきて

関門や向き合ふ春の山二つ




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第26回 日本伝統俳句協会新人賞
「月の声」   能美顕之

タクト振るごとく風あり蟬時雨

蟬の声いつしか風の声となり

手花火に群がつて来る小さき手

手花火の終の一閃とは踊る

稲妻の空の叫びを宿しをり

稲妻の捉へし雨の細きこと

踊の輪小さく踊りつつ抜ける

空蟬の風の住処となりにけり

森の声ソプラノとなる野分かな

朝霧に放たれてゆく車窓かな

秋雲を乗せてカーテン揺れてをり

秋天に放り出されしフェリーかな

船上に出て秋風の子となりぬ

さわやかに水平線のありにけり

大海に子の一投や天高し


風に皆ほどけてゆきぬ島の秋

いのちあるかに一滴の露動く

子の背の小さくなつてゆく花野

白シャツのさわやかに風捉へたる

コスモスを離れて風の広くなる

とんぼうのリズムを刻みゆく飛翔

芒原光の声のありにけり

虫の声一島包みゆく気配

月明に抱かれてきし和顔とも

雨音の月のささやき宿しをり

月明や青き世界の現れぬ

だんだんと無口になつてゆく月下

月光に遠ざかる空ありにけり

大いなる月に小さく佇みぬ

胎内の遠き記憶や月の声




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第26回 日本伝統俳句協会賞佳作
第一席 「山桜」 古賀しぐれ
第二席 「水輪」 駒井ゆきこ
第三席 「匂ひ袋」 大谷櫻
第四席 「能登千枚田」 伊東弥太郎
第五席 「遠野物語」 藤井啓子
第六席 「川施餓鬼」 松井秋尚

※佳作作品及び本選選者の選評、選考経過は「花鳥諷詠」3月号に、受賞者の感想は同じく4月号に掲載されます。


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