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第23回 日本伝統俳句協会賞
「秋から冬へ」 山本素竹

大花野羽音の中にありにけり

案内板よりもたくさん花野道

虫たちの消えし草々出水跡

団栗を拾はぬけれどかがみたる

湖底まで届いてゐるか水澄める

秋の蝶羽緩めれば沈みけり

うすうすと空になりたき秋の雲

秋天に上る煙が青くなる

仰ぐたび新しくなる秋の雲

秋風のふれて静かな漣に

冬の雨たちまち曇るガラス窓

星消えし星現はれし鰯雲

冬草を踏めば光りぬ昨夜の雨

冬紅葉昼のぬくもり残る幹

木枯の残れる耳や音なき夜


大木にしては小さな葉の落葉

枯草の音湿原を走りけり

木道に杢目模様の初氷

対岸へ回れば鴨も対岸へ

潜りつつたちまち遠し鳰

枯芒微塵の光飛び立たむ

口にしてしまひ寒さに囚はれる

窓走る影飛ばされて行く木の葉

心臓に遠き指先から寒さ

浮寝鴨われから離れ行く気配

驚けば鴨いつせいに湖へ

滝凍る気泡に光閉ぢ込めて

足音を大きくしたる夜の寒さ

冬の月明りあをあを積める闇

星仰ぐ寒さに負けてしまふまで




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第23回 日本伝統俳句協会新人賞
「日向ぼこ」   抜井諒一

初春の湯気たくましき朝湯かな

春の日や漣ひとつづつ光る

春の宵歩けば肺の潤へり

ぺつたりと富士を映して水温む

霞ひく今日は別れの日なりけり

葉から葉へ雨を移せる若葉かな

先生は一際大き夏帽子

夏の雲まだまだ白くなりさうな

炎天の文字のふるへてゐる石碑

緑蔭の背中に芝の強さかな

水馬と水の間にあるちから

手花火の火は液体となりにけり

掌に小さき闇や蛍狩

空蝉を透く午後の日でありにけり

ひぐらしの声して猫の目を覚ます


焦点のどこまでとなき秋の空

上るとも下るとも見ゆ秋の水

とんばうの時折風に隠れけり

外に出れば目に収まらぬ星月夜

大方は風に消えゆく虫の声

しなやかに葉の月光を乗せてをり

秋ともしグラスを置いて硬き音

桐一葉落ちたる音の届かざる

座りたき椅子に菌が生えてをり

目逸らせばもう見付からぬ落葉かな

人乗せて芝生大きな日向ぼこ

焚火から目を逸らさずに話しをり

光いま氷柱の中にありにけり

だんだんと蒲団になつてゆく体

ともし火に雪あらはれて消えにけり




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第23回 日本伝統俳句協会賞佳作
第1席 「幽棲記」   神子沢さくら
第2席 「島」        湖東紀子
第3席 「静かなる」    能美顕之
第4席 「独逸紀行」  久保田幸代
第5席 「ほととぎす」   田中子


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