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第22回 日本伝統俳句協会賞
「木挽町」 佳田翡翠

成田屋の睨みを奉ず江戸の春

幕開きの淑気みなぎる三番叟

猩猩の板踏み鳴らす松の内

新橋の妓もちらほらと小正月

出し物は勧進帳といふ二月

柝が入るまでの番茶と蓬餠

幾度でも聞きたき科白月朧

春昼や暗転したる花舞台

大喜利は神田祭の笛太鼓

齧り付きとは助六の汗までも

紫の鉢巻を垂れ眉涼し

幕間の桟敷へ届く鰻めし

香水に咽ぶロビーを擦りぬけて

昼の部も夜の部も観て梅雨深し

傾城に化けし土蜘蛛なりしかな


片肌を脱ぎたるよりの名調子

怨念の迫り上がりくる夏芝居

御贔屓の役者の好きな走り蕎麦

芝居小屋裏の茶房の吾亦紅

木挽町辺りいざよふ月の路地

清元の語りて謡ふ夜の長し

音も無く緞帳替はる秋灯下

団十郎菊五郎舞ひ秋闌ける

女形熊手を抱へ楽屋入り

大向うより咳きの一頻り

生と死と男と女近松忌

顔見世のほてりに街の灯の潤む

攀ぢ登る火の見櫓へ緋の裳裾

今朝の雪よりも舞台の雪霏霏と

浄瑠璃の三味殷殷と冬の夜




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第22回 日本伝統俳句協会新人賞
「六分儀」   竹岡俊一

鳴き交はす汽笛も澄みて初景色

初空や出港準備の人いきれ

引揚げし錨に花の散りにけり

ゆらゆらとタグボート着く春の海

風光る浦賀水道過ぎにけり

僚艦の真上にかかる朧月

春潮や口をへの字に結ぶ舵手

真円の水平線や卯浪寄す

飛魚や波頭より波頭

サングラス艦長席の摩り切れて

青嵐艫より旗の翻る

フィヨルドのレンガ白夜に照らされて

登舷札やや汚れたる白靴も

登舷札砲声重く夏霞

六分儀銀河の砂をすくひけり


南洋の怪談つきぬ星月夜

秋風や海図台よりペンの音

朝露の甲板ぬぐふ腕かな

最微速総員見張る海霧の中

小艇の発つ舷梯やそぞろ寒

船体のねぢられし音冬の月

冬濤の洗ふ甲板風の息

凍雲を急降下して母艦の灯

轟音の飛行甲板襟に雪

交替して悴みしまま眠り込む

風花の母港に人の影まばら

火花散るドックの底も息白し

冬の雨舷門で待つ手紙かな

年用意満艦飾も張り終へて

ポラリスの回す星座や春隣



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