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第19回 日本伝統俳句協会賞
「十三夜」 山田弘子

供華を剪る鋏の冷や十三夜

後の月拝むと化粧ひたる女

後の月追ひかけ旅に出るといふ

彼岸まで届く飛石鰯雲

秋晴や絵具まみれで現れし

物置は頭より入る鶏頭花

切干がちりちりちりと粗莚

へそまがりなら任せおく唐辛子

水音を離れ水音秋の蝶

朝寒の千年杉は息を吐く

山祇の沈んでをりし露葎

山寺の昼の深さをばつたんこ

大根を引くも洗ふも男手に

十夜鉦ひたすら打ちて揃はざる

大津絵の朱が錆色に初時雨


大床に座る木の根と烏瓜

ゆるびたる星座のひとつ小夜しぐれ

黒々と忌の人が着く寒さかな

別棟に法事の膳や梅もどき

友情の届いてをりぬ濁酒

遺志を継ぐこころ小春に似たるかな

冬薔薇力抜かざる白なりし

綿虫を吐きつぐ杉の木霊かな

風を聴き木霊と語り冬帽子

地に還るまで風を染め冬紅葉

眼の翡翠のこし蟷螂死にゆくか

冬滝に人は何かを捨てに来る

帰り花仰ぎ還らぬものばかり

今日の灯を落し茶の花月夜かな

凩や土中に眠るものあまた




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第19回 日本伝統俳句協会新人賞
「田」 西やすのり

鍬の背にこんと耕し初めにけり

耕に必ず寒い日のありぬ

用水の音の軽やかなる田打

夕暮の連山正す代田かな

外灯の映る代田の続きをり

鶯の声を合図に植ゑ初むる

田植機の車庫に納まり一眠り

除草剤早苗に詫びて撒きてゆく

足跡に濁りの残る植田かな

堆く積む苗箱に風薫る

用水の水逆巻きて植田へと

田を干して蝌蚪の住処を狭めたる

田水張りおたまじやくしの生き返る

燕低く飛びて田水を浅く張る

一服の膝に飛び付く雨蛙


菖蒲湯に鎌の傷口洗ひけり

立ち止まる青田を渡り来る風に

夏雨や込み合ふ村の診療所

長雨や日に日に稲の倒れゆく

明日刈るといふ空に月浮かみけり

明日雨の予報総出の稲を刈る

稲刈機馬糞のごとき土落とす

刈り終へて今日は我家の秋祭

刈り終へし後の良夜でありにけり

刈り終へて虫の夜となる眠りかな

稲刈りてただの雀となりにけり

寂しさの風に広がる刈田かな

広がつてゆく寂しさの刈田かな

ひつじ田や遠くで犬が鳴いてゐる

ひつじ田に風の音聞く広さかな



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