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第17回 日本伝統俳句協会賞
「月」 佐土井 智津子

月白や天領の山平らけく

観音の千手の掬ふ月明り

切株の温みほのかに夕月夜

月光を真直に受けし太柱

月の窓御伽噺をくり返し

車寄せ月夜の客の影法師

松が枝の影式台に月の友

酒を酌む夜光の杯や月今宵

高楼に月の宴の静かかな

名月や人を迎へて人送り

豊かなる白湯を手にせる良夜かな

月の縁一人がほどの光かな

ひたぶるに恋うて月夜の兎かな

白き径地に月光の還らんと

金輪際浮世でありし月明り


月光に大東京の溺れたる

人語過ぎ風の過ぎゆく月夜かな

月光にかざす十指のまぎれなし

今宵また敲く人あり月の門

月光に白布となりし庭の面

大井川越えなんとして良夜かな

歴代の写真鴨居に月の宿

十六夜や手紙の結びかしこにて

街の灯の立待月に増ゆるかな

居待月雲の港に停泊し

風の影うつつにありし寝待月

更待の月や遙ばる夢の中

宵闇の天地一塊なりしかな

艪の音の止まりしままや後の月

獣らの眠りに入るや十三夜




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第17回 日本伝統俳句協会新人賞
「野に咲く」 内原 弘美

下萌や大地の呪縛解けしより

太陽を照らし返してたんぽぽ黄

花はこべ終りの来ない数へ歌

地の果ては空の始まりいぬふぐり

日の差して空といぬふぐりを繋ぐ

花なづなハートの梯子伸ばしゆく

母子草かごめかごめの傍らに

浮雲の影野に敷いて苜蓿

萎るるといふ抵抗を手の菫

すみれ摘む指先細く細くして

町の子がげんげ零してゆきにけり

すかんぽを啣へがき大将戻る

自らの輝くちから金鳳花

川面来て風ぎしぎしに寄り道す

蛇苺仲間外れの帰り道


その奥の潮騒鈍く花茨

車前草の風測る丈突き出して

その棘を日差に研いで夏薊

夏草に人が無くせしもの数多

昼顔や畳みし時を日に晒し

月見草洩れし生活の灯に浮かぶ

ねこじやらし遊び相手にして一人

ぢつとしてゐられぬ風のねこじやらし

芒原人呑み込んで輝けり

芒野に屈めば空の遠くなる

風が風追ひてコスモス渡りゆく

草の花歩みを止めし人に咲く

吾亦紅夕日に拳振り上ぐる

赤のまま赤のまま枯れゆかんとす

枯れ枯れて枯野の底に日の届く



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